
今回はダイビング中に多発している謎の肺水腫「水泳誘発性肺水腫(サイプ)」について分かりやすく解説します。
近年、ダイビングやシュノーケリングなどの水難事故で水を誤って飲んでいないのに、肺に水が溜まって呼吸ができなくなる肺水腫になる事例があり、水泳誘発性肺水腫(サイプ)や浸水性肺水腫と呼ばれています。
まだ、医学的な疾患概念が確立されていないことから、原因究明や対策などを行なうため、沖縄県警は病院と大学との間で連携協定を結んでいます。協定を結んだのは沖縄県警と琉球大学病院、名桜大学です。
沖縄県警の分析では2019年から2026年4月までに水泳誘発性肺水腫(サイプ)が疑われる事例が161件確認されていて、およそ7割が50代以上、事例別ではダイビングとシュノーケリングが8割余りを占めています。
ダイビングを安全に楽しむために水泳誘発性肺水腫(サイプ)について知ることはとても重要です。水泳誘発性肺水腫(SIPE)の予防方法や応急手当を知らないと命に関わる危険性があるからです。
この記事を読むことによって、まだ謎の多い水泳誘発性肺水腫(サイプ)について、中間発表、発生メカニズム、症状、危険性を高める要因、予防方法、応急手当、沖縄県内の事故例を知ることができます。
目次
水泳誘発性肺水腫(サイプ)の中間発表
溺れていないにもかかわらず、ダイビングやシュノーケリング中に呼吸困難となる症状について、原因究明や対策を進める琉球大学病院などが5月22日、研究の中間成果を発表しました。
沖縄県内では、誤って水を飲んで溺れる一般的な水難事故とは違う「水泳誘発性肺水腫」(すいえいゆうはつせいはいすいしゅ)=通称「SIPE(サイプ)」と呼ばれる症例が確認されています。
琉球大学病院や警察は去年、SIPEによる事故を防ぐための連携協定を締結していました。先週の中間成果発表には、マリン事業者らも参加し、琉球大学病院の梅村武寛救命救急センター長がSIPEが発症する要因について説明しました。
梅村センター長によりますと、冷たい水やウェットスーツの締め付け、激しい運動による血圧の上昇などが原因で肺に液体がたまり、呼吸不全を引き起こすということです。

警察の分析では、2019年から2026年4月までにSIPEが疑われる事例が161件確認されていて、およそ7割が50代以上、事例別ではダイビングとシュノーケリングが8割余りを占めているということです。
琉球大学病院 梅村武寛 救命救急センター長から
「症例を重ねることで、1つ1つ見直すことで(原因が)間違いないだろうと。すると例えば応急処置ができるかもしれない。この状態は病院に連れていくと速やかに改善できると分かってくると事業者の動きも変わると思う」
警察は事業者に広く周知し、体調チェックシートの導入などを進めることにより水難事故の防止に努めたいとしています。
琉球放送 RBC 2026年05月22日 引用
水泳誘発性肺水腫(サイプ)とは?

水泳誘発性肺水腫(サイプ)とは、水を誤嚥していないのに、肺に水分が溜まり急激な呼吸困難や血痰を引き起こす疾患です。
冷水での過度な運動や、きついウェットスーツの着用などが引き金となり、呼吸困難を引き起こします。ダイビングやシュノーケリング、水泳などで発生しているのが確認されています。
水泳誘発性肺水腫は英語では”Swimming-Induced Pulmonary Edema”と言います。略してSIPE(サイプ)とも呼ばれています。日本語では「浸水性肺水腫」や「浸漬性肺水腫」とも言います。
海水を大量に飲んだり溺れたわけではないのに、肺の中に体液が染み出してしまい、溺水(溺れた状態)と同じような危険な状態になります。高血圧の持病がある方や高齢者に発症のリスクが高いです。
参考記事 : 浸水性肺水腫 – 25. 外傷と中毒 – MSDマニュアル家庭版
水泳誘発性肺水腫(サイプ)の発生メカニズム
水泳誘発性肺水腫(サイプ)が発生するメカニズムは脚と腹部からの血液が肺に再分配されることで肺の血管の内圧が上昇し、血漿が肺の中に漏れ出すことで生じます。水中に身体を浸すことで生じる要因が複雑に絡み合って発症します。
発症メカニズムは主に以下の4つの要因が重なって引き起こされます。
冷水に浸かることで、体の中心部を守るために手足などの末梢血管が収縮します。これにより、血液が体の中心(胸部・肺)に一気に集中します。
激しい運動による心拍出量の増加
水中での過度な運動(ダイビングでの強いキックや潮流に逆らう遊泳など)により、心臓から送り出される血液量(心拍出量)が増大します。
胸部の物理的な締め付け
ウェットスーツやドライスーツの締め付けが胸部を圧迫し、血液の巡りをさらに制限します。また、呼吸時の胸腔内圧の強いマイナス圧も影響します。
血管圧の上昇と水分の漏出
上記の要因で肺の毛細血管内の圧力(肺毛細血管圧)が異常に上昇し、血液中の水分が血管から肺胞(空気が入る場所)へ染み出すことで発症します。
水泳誘発性肺水腫(サイプ)の症状
水泳誘発性肺水腫(サイプ)の症状には急激な息切れ、呼吸困難、激しい咳、泡状のピンク色や血の混じった痰(血痰)、胸の痛みや圧迫感、急激な低酸素血症による錯乱や意識の混濁などがあります。又、発症は非常に急激です。
水泳誘発性肺水腫(サイプ)の危険性を高める要因
水泳誘発性肺水腫(サイプ)は健康な人でも起こる可能性がありますが、以下の条件が重なると発症リスクが高まります。
- 冷水での活動
- きつすぎるウェットスーツやドライスーツの着用
- 高血圧の持病がある方
- 過去に水泳誘発性肺水腫(SIPE)を発症したことがある方
- 女性や高齢者の方
水泳誘発性肺水腫(サイプ)の予防方法

水泳誘発性肺水腫(サイプ)の予防方法は以下になります。
- 水中での激しい運動や過度な運動負荷を避ける。
- 水温が低い環境では防寒対策をしっかりと行い長時間のダイビングを控える。
- 締め付けの強すぎるウェットスーツやドライスーツの着用を避ける。
- 体調不良時や、高血圧などの循環器系疾患がある場合はダイビングを控える。
- ダイビング中に息苦しさや咳が出たら無理をせずに中止する。
水泳誘発性肺水腫(サイプ)の応急手当
ダイビングで息苦しさや異常な咳を感じたら、すぐに水中から上がり、安静にして酸素を吸入することが最も重要です。軽症であれば水中から離れることで数時間〜24時間以内に自然に回復することが多いです。
しかし、水泳誘発性肺水腫(サイプ)は重症化すると命に関わるため医療機関での処置が必要です。
水泳誘発性肺水腫(サイプ)の応急手当は、肺に血液が集まるのを防ぐため、寝かせずに体を起こして座った姿勢(起坐位)にします。ウェットスーツやドライスーツのチャックを開いて胸部を圧迫から解放します。
回復したように見えても肺にダメージが残っている危険性があるため、必ず医療機関を受診するようにして下さい。
水泳誘発性肺水腫(サイプ)の沖縄県内の事故例

沖縄協同病院の医師が発表した論文(「沖縄医学会雑誌」第62巻4号掲載)では、浸水性肺水腫になった3人の観光客の症例を紹介しています。(引用元 : 沖縄タイムスプラス 2025年06月13日の記事)
55歳の男性は、ダイビングを始めて15分間、5メートル潜った後、自力で船に上がり座っていたが、心臓が止まった。白目をむいて顔が青白くなった。救急隊が現場に到着して胸骨圧迫を始めた。佐久田医師が乗ったドクターカーが着いた後、気管挿管を行い、心拍が再開した。病院でレントゲンを撮ると、両肺に影があり、間質性肺水腫の状態だった。意識障害が長引いたため、気管を切開し、胃ろうを造設するなどして本土に退院となった。10年前まで1日20本、20年間の喫煙歴があった。家族に高血圧の人がいた。
51歳の女性は、ダイビングをしようと沖へ向かって20メートルほど泳いだ後に「息苦しい」と言い、海面に顔がついたり上がったりしていた。水没したわけではなかったが、意識に異常を来した。インストラクターらが陸まで連れていき、救急車を呼んで、すぐに胸骨圧迫を始めた。佐久田医師の到着時血中酸素(パルスオキシメーター)の低下があり、気管挿管を行ったところ気道から水があふれ出た。両肺に影があり、やはり肺水腫状態であった。人工呼吸器を付け、降圧剤を投与した。すぐに自力で歩けるようになり、退院した。未治療の高血圧があり、1日10本、20年以上の喫煙歴があった。
63歳の男性は、15年ぶりにシュノーケリングを始めて海水に浸ると、3分たたないうちに気分不良を訴えた。マリンスタッフから手渡された浮き輪につかまったが、そのまま意識を失った。水没したわけではない。救急車を呼ぶとともに、船に引き上げて胸骨を圧迫し、人工呼吸を始めた。脳へのダメージが大きく、血圧も不安定で、治療の甲斐なく死亡した。両肺に影があり、間質性肺水腫の状態だった。動脈硬化があり、毎日20本、20年以上の喫煙歴があった。
水泳誘発性肺水腫(サイプ)のまとめ

今回はダイビング中に多発している謎の肺水腫「水泳誘発性肺水腫(サイプ)」について分かりやすく解説しました。
沖縄県警の分析では2019年から2026年4月までに水泳誘発性肺水腫(サイプ)が疑われる事例が161件確認されていて、およそ7割が50代以上、事例別ではダイビングとシュノーケリングが8割余りを占めています。
水泳誘発性肺水腫(サイプ)とは、水を誤嚥していないのに、肺に水分が溜まり急激な呼吸困難や血痰を引き起こす疾患です。
水泳誘発性肺水腫は英語では”Swimming-Induced Pulmonary Edema”と言います。略してSIPE(サイプ)とも呼ばれています。日本語では「浸水性肺水腫」や「浸漬性肺水腫」とも言います。

水泳誘発性肺水腫(サイプ)の発生メカニズムは脚と腹部からの血液が肺に再分配されることで肺の血管の内圧が上昇し、血漿が肺の中に漏れ出すことで生じます。水中に身体を浸すことで生じる要因が複雑に絡み合って発症します。
水泳誘発性肺水腫(サイプ)の症状には急激な息切れ、呼吸困難、激しい咳、泡状のピンク色や血の混じった痰(血痰)、胸の痛みや圧迫感、急激な低酸素血症による錯乱や意識の混濁などがあります。
水泳誘発性肺水腫(サイプ)は冷水での活動、きつすぎるウェットスーツやドライスーツの着用、高血圧の持病がある方、過去に水泳誘発性肺水腫(SIPE)を発症したことがある方、女性や高齢者の方が重なると発症リスクが高まります。
水泳誘発性肺水腫(サイプ)の予防方法は水中での激しい運動、水温が低い環境、締め付けの強すぎるウェットスーツやドライスーツ、体調不良、高血圧などを避けるようにして下さい。
水泳誘発性肺水腫(サイプ)の応急手当はすぐに水中から上がり、安静にして酸素を吸入することが最も重要です。
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